俺、七草にちかと同級生だったよ。

シャニマスに新アイドル、七草はづきの妹、七草にちかが登場した。

見た目のインパクトはなく、ただの普通の女の子という感じ。

ゲーム内でも町中にいるありふれた少女の一人というような認識でユーザーに印象を与えた。

 

第一印象は正直、高校1年生というよりは中学生のように感じた。

小動物のような愛嬌、生意気さ、そしてありふれた親近感。

 

 

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たしかにいた、俺のクラスにも。

 

七草にちかがいた。教科の成績は中の上くらい、運動神経も良くない。

体育祭で可愛いはちまきの巻き方をしていたり、球技大会では仲のいい女の子とクラスの男子の応援に真っ先に来る、七草の姿がはっきりと脳裏に焼き付いている。

合唱コンクールでは先陣を切って仕切るわけでもなく、言われたことだけをこなし、ただ、ただ前向きで明るいだけでクラスの俺たちを支えてきた。

 

席替えの時もそう。七草が同じ班というだけで安心感がある。

給食中、通夜のような雰囲気になることはないだろうという絶対的な信頼がある。

 

自分の班に七草がいないとき、友達が班で発表していたり、給食中に笑い声が聞こえた先に七草がいると羨ましかった。あいつがいる班は特別充実していて、常に笑顔が絶えない。そう見えてしまった。

 

たしか、筆箱も無印の白いケースを使っていて、シャーペンは絶対に0.3mmにこだわっていた。特別何本もの蛍光ペンを持つような子ではなく、ただシンプルを極める筆箱だった。

 

俺が話せる七草との深い思い出は一つもない。普段遊ぶほど仲がいいわけでもなかったし、俺は部活で忙しかったし、中学時代に女の子と遊んだ記憶なんてない。

しかし、あまり話さなかったが、七草と同じ班であることはなぜか多かった。

 

そんな学生生活で一つだけ覚えていることがある。

 

国語の時間、給食が終わり睡魔に襲われ、眠気に負け、顔を突っ伏していた。

目の前の席に七草がいて曖昧な多幸感に包まれる。そんな感じだった気がする。

ふと目が覚めると唾液で汚れたプリント、今にもこちらを振り返りそうな奴に備えて急いで口を拭い、紙をしまう。

その瞬間、チャイムが鳴り皆が席を立つ。

一礼を終え、全員が帰りの準備をする。そこで自分の手の甲に目を向けると、謎の犬なのか豚なのかわからない絵心のある可愛いイラスト。

 

俺はこの落書きの犯人がすぐ七草だと分かった。

でもその時俺はなぜか七草に直接描いたのかを尋ねなかった。

正直、舞い上がっていたのに。

 

すると目の前に座る七草がこちらを振り返り

目を合わせることなく、人の手の甲を見て笑い、前を向いた。

 

その日は部活だったが、家に帰ってから風呂に入ったのは寝る直前。

「これ消さなかったら、ダサいよな」

そう思い、「油性だから」と、言い訳できるくらいのインク跡にしておいた。

 

これが俺が覚えてるなんてことない七草との話。

 

今はアイドルとして活動してるらしい。

だからこの話は何にもない俺の、ちょっとした自慢。